モドキ

気晴らしに近所の川沿いの大きな公園まで散歩した。園内の草地の上にポンと置かれた三角コーンに掲示物が貼り付けられていて、ふと目をとめて見ると希少生物のショウリョウバッタモドキの保全について書かれていた。ついさっき足元にやってきたショウリョウバッタを見つけてウキウキしていたが、さてはモドキの方だったのかもしれないと思った。散歩を続けながらモドキについて考えた。
わたしはモドキという言葉が好きだ。
ナナフシなどの擬態して欺こうとする昆虫にはモドキと名付けずに、アゲハモドキなどの欺く気などさらさらないのに誰かと似ているというだけでモドキと名付けられてしまう、この不条理と強引さには哀愁と滑稽がある。
モドキという言葉を最近の言葉に置き換えるとフェイクという言葉が近いと思う。
しかしフェイクでは補えない部分がモドキにはあり、黒黒とうねうねした闇のようなあやかしが言葉の後ろに控えているように感じられる。
「その時に気づいたんだ。そう、そうなんだ。‥こいつ生きてる人間じゃないんだ。」
稲川淳二さんの語る怪談で現れる幽霊は言ってみればニンゲンモドキで、人間の姿形をしているが内側は、ナニモノかに支配されているか、空っぽのどす黒い闇がある。
欺く、騙す、化かす妖怪変化の類いはモドキの筆頭格だろう。モドキにはそんな恐ろしい部分と狐狸妖怪の親しみを感じる可笑しさが含まれているように思う。

以前から何をやっている人ですかと自分のことを尋ねられた時に、絵を描いたり、立体作品を作ったりなんやかんややっていますと答えてきた。胸を張って芸術家だと言えるような立派な芸術家ではない。作品だけで食べているわけでもない。中途半端で照れがありはぐらかしてきた。しかしこれからはゲイジュツカモドキをやっていますよと答えようかと思った。
ゲイジュツカ、それ自体がまやかしに近い言葉なのでモドキモドキという、頭痛が痛いみたいな二度手間な名称になって混乱させてしまうだろうか。いや、世の中にはトゲアリトゲナシトゲトゲとか、もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対、などのどっちなんだよみたいなものもあるのでゲイジュツカモドキで通じるのではないかと思う。

by koyamamasayoshi | 2021-08-19 22:40 | 日記


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