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ラジオ深夜便で松任谷由実特集をやっていた。1曲目に「『いちご白書』をもう一度」が流れた。いままで気にとめていなかったこの曲を蒲団の中天井を見つめながら聴き入った。詩の内容から、70年代、当時の学生運動の熱から醒め、結局なにも変わらないことに諦めた若者達への鎮魂歌に思えた。「いちご白書」という映画の内容は知らないがきっと「タクシードライバー」や「バニシングポイント」「イージーライダー」など反体制のアメリカンニューシネマだろう。
最近髪も切り、髭も落とした身の上に、シンプルに突刺さるものがあった。
「希望」と「諦め」と「破れかぶれ」。学生の頃抱いていたテーマが未だこころにあり続けることを確信した思いがした。
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昨年から年をまたいでラピュタ阿佐ヶ谷で20周年アニバーサリー特集をやっている。20年間で上映した作品の中から来館者のリクエストでラインナップを組んでいる。コアな古い邦画ファンが選んだ作品群。すべて見たいがなかなかそうもいかず、とりあえず3枚綴りのチケットを一組買って厳選して3作品、日をおいて観に出掛けた。
12月頭に井田探監督作品「青春を返せ」、暮れに野崎正郎監督「広い天」、正月7日に滝沢英輔監督「しろばんば」を観る。
特に「しろばんば」は観たい映画で芦川いづみファンとして待ち望んでいた。
恋心を抱いていた憧れの叔母芦川いづみが肺病を患い亡くなったという訃報を聞き、同級生たちと山道を天城峠トンネルへ向かい、そして意味も無く全員素っ裸になって、なんまいだーなんまいだーと亡くなった叔母を弔い延々と行軍し続ける少年たちの姿はとても素晴らしいラストシーンだ。
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久しぶりに油絵を描きたい。都心へ画材屋に出掛ける電車の中ふと15年程前に観た絵を思い出した。予備校に通っていた時にいたKさんが後に美術大学の卒業制作展で出した油絵だ。野村芳太郎監督の映画「砂の器」の一場面を描いていた。たしか加藤嘉と少年が海岸を流離う場面を描いていたような気がする。あまり巧くなく朦々としていて何が描いてあるのかよくわからなかったが、タイトルが添えられていたのでその場面だとかろうじてわかったという曖昧な記憶だ。
何故映画のワンシーンを描くのだろうと当時は理解不能だったが、なぜかずっと頭に残り続けていた。
しかし今になって「そうだよなあ」「そういうことだよなあ」と流れる車窓を眺めながら思った。
こころに共鳴する風景や光景がもはや同時代に存在しなければ過去の映画の中に求めることは無理からぬ気がする。ものを作ったり絵を描いたりする己の魂の発露は極私的でいいし、他人に伝わんなくたっていい。ただこの場面が好きだから描いた。
そういう脈絡のないものは、アート界隈で馬鹿にされ相手にしてもらえないだろうけど、俺の頭の中にはいつまでも「砂の器」の絵が抜けない刺のように残り続けている。
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昨年末、本屋に立寄り大竹伸朗さんの新著「ナニカトナニカ」を買う。
黙々と精力的に作品を生み出し続ける姿を文面から想像し、怠け者の自分を恥ずかしく思いながら読み終えた。そのなかでも浅川マキさんとのエピソードは自分は死ぬまで忘れ得ないと思う。その少ない言葉でその人の人生を想像してしまう。なんてかっこ良いんだろう。
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大正から昭和初期にかけての日本を外国人によって撮影された市井の人々や風景のフィルム映像をyoutubeで見た。驚いたことに同時に音声も収録していたようだ。街の往来の音、子ども等の声、下駄の音、祭りの賑わい。こどもたちは着膨れた上に前掛のようなものを来てわらわらと歩いているので、まるでペンギンが歩いているようにみえる。子守りをする娘もいるが何をするでもなくぼーっとつっ立っている子も大勢いる。花見の場面が映る。女性たちは持って来た弁当を食べ、男は煙管で煙草を飲み、芸者は小唄をうたっている。映画では出せない生活感のなかにゆったりとした時間が流れている。
「世間におんぶしちまうのさ」は黒澤映画「どん底」で三井好次がいう名台詞だが、その言葉がなんとなく似合う。何かしているんだけど何もしない。ただぼーっと五感を周囲に中空に漂わせているだけ。何か仕事や目的を詰め込んで一日を一年を埋めようとせずに暮らしている。遊びや曖昧さや余白の部分にそれぞれの想いを寄せることで情緒が生まれているような気がする。
外国人の撮影が珍しいのか、カメラが気味悪いのか、画面には人々が怪訝そうな眼差しがむけられる。110年後の日本人が見ているのだが、110年前の彼らに見られているようにも思う。
小山真徳 展覧会情報
by Koyama Shintoku
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