妻有鷲眼記⑵ カメラで撮ることについて考える
5月、イリア&エミリア・カバコフの作品「棚田」が眼前にある場所で自分は作品制作をしていた。
カバコフの作品は、棚田で農作業をする農民のシルエットと農作業に関するテキストが、ある場所から鑑賞すると重なって見え、この地の歳時記を絵本の様に表現している作品である。
芸術祭会期前にも関わらずこの有名作品に観光客はやって来る。土日休日となると観光バスのコースになっているようで大勢の観光客はその棚田に向かってスマホやカメラをむけてパシャパシャと撮影して去って行く。その光景を傍で眺めながら作業を進めていた。
その光景を眺めるうちに、なぜカメラで何かモノを撮るのだろうという疑問が沸いてきた。次第にカメラで何かを撮るということが自分にとってどうでもよく思え、撮ることがなくなっていった。
気になったのは、カメラで撮ることが主の目的になっているという点だ。カメラもしくはスマホという御朱印帳に、さも「ここに来た」という証拠を残しているように思えてしまうのだ。
証拠を残すことにどれほど意味があるだろう。そのことがどれほど人生を豊かにするだろう。
スタンプラリーのように御朱印帳に印を集めることよりも、寺社に参って神仏に対峙し、自身の心の中に何か救いを見出す心の変化が大事ではないか。
風景でも芸術作品でも同じなのだと思う。
それと対峙した時に何を感じるか、だ。
それが頭、脳、耳、身体を通過するよりも先に無意識に撮影してしまう。それはある意味で反射的で鋭敏な感覚かもしれないが、同時に多くの感覚をシャットダウンしてもいるのだ。
あたりまえだが、人間の感覚は視覚だけではない。そして記憶の構造も視覚だけで出来てはいない。
音が、味が、匂いが、時間が、また暑さ寒さが絡まり、頭の中に渾然一体とした情景が立ち浮かぶ。おなじものを見ながらも、人それぞれ別な情景が頭の中に浮かんでいるからこそおもしろい。
写真を撮るということを人間が皆一斉にやめたら、より文化が進歩すると思う。
写真は、手軽に撮れることで、ひとに伝える情報量とその手間を大幅に省いているともいえる。
気持ちや出来事、事象を伝えるのに、写真を使わず、言葉で詩で、歌で文章で、小説で絵で、音楽で身体で伝えるとする。
そういった手間のかかる部分に芸術が生まれてきたのではなかったか。
受け取る側の想像力を刺激するこういった芸術分野が、抽象的な何かを読み取ろうとする力を育てるのである。目に見える視覚ばかりを気にした作品が持て囃されてゆき、作り手もそんな作品ばかり作り続けていくようになったらこの先にどんな世の中になるんだろう。そこに情緒は残っているだろうか。
伝える側の技術能力が高まりさえすれば、自然と受け取る側のキャパシティも養われるはずだろう。
人間皆が一斉に写真を撮るのをやめることは、まずありえない。だからせめて、写真を撮る人間の有様がどうにかならないかと思っている。カメラで撮影している人や、スマホを向けて撮影している人の佇まいがとにかく美しくないのだ。特にスマホを一斉に向けている群衆のみっともなさ。「おわら風の盆」を見に行った時にはそれを烈しく感じた。暗がりの路地に美しい踊り手が静かに舞う。そのまわりに、無神経に光るスマホを掲げ、小さい窓から舞い手を覗くみっともない群衆の影。自分にもいいきかせたいことだが、群衆は群衆らしく、「情緒」のまわりでは大人しくなにもしない方が美しい。明治の写真の中の群衆はなんとも美しい。それは丸腰でなにもしていないという点で抜群に美しいのかもしれない。
また小津安二郎、黒澤明、成瀬巳喜男の映画などに、自分(てめえ)のことばかりに終始している群衆のシルエットなど出てきたためしがない。だから美しい。
写真を撮りつつ美しい佇まいを自分なりに考えてみる。
お辞儀をした頭のてっぺんで写真が撮れるとしたら。
合掌をする手の間からそっと写真が撮れるとしたら。
非現実的だがそんな感じが俺にとってはまだ佇まいとして美しいと思えるところだろうか。
小山真徳 展覧会情報
by Koyama Shintoku
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