続、けんぽくロードサイド

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昨日遠く夕闇に見た、高萩の町に這いつくばる、国芳の絵の、がしゃどくろのような大規模廃墟群を朝、見に行く。
車内に、ちあきなおみをかける。昨日のスナックのマスターに訊いたところ、あれは製紙工場跡で、今では映画やドラマのロケ地として利用されていると教えてくれた。そこは近づくごとに広大であることが分かる。遠くから望むと2本だと思っていた煙突も、近づくと真ん中でポッキリ折れたもう1本が現れた。がしゃどくろの工場群にもっと近づいてもらい車は走るが、ぐるり囲い込んだ塀に阻まれて近づく事が出来ない。関係車両ゲートまで来て、車を降りゲート越しに、大髑髏を眺める。
砂山に棒を突き刺し、砂を削り取る山崩しゲームのように、その廃墟群を削り取る、ショベルカーの姿は、何の因果かこの世に生まれ落ちた巨大な怪物を捕食する蟻んこのようだ。喰われながら、怪物が送る輝きを失ったビー玉のような目線をゲートの外から感じた。


北茨城市に向かう。コンビニに寄り、朝食を買う。道を挟んだ向こうの民家の庭で、腰を屈めた爺さんがカナバサミで、何かを拾っては積み、拾っては積みを長時間続けている。その姿からは、賽の河原の石を積み続けるような、途方もない時間のループを漂わせている。
自動車整備工場、ドライブイン、ここらのロードサイドの風景は埃っぽくて良い。海岸線の防風林の木々の間から太平洋の光が溢れている。

山側の道に入りしばらく走ると、展示会場の旧富士ヶ丘小学校に着く。近場に出来た真新しい校舎に学び舎を移し、展示会場の校舎は廃校になるという。
数日ぶりに来訪した柚木さんは当然有名人で、受付スタッフのおばちゃんたちに先生と呼ばれ慕われている。

校舎3階へ上がる階段から柚木さんの作品の導入がある。それは、時間と場所を凝縮した波間の上を、櫓のない舟のように、会場へと自然に引き寄せられてゆく。
2ヶ月間の物々交換の旅の記録映像が、山篇、海篇として教室の右と左に映し出されている。中央には相棒となった屋台小屋が、静かに佇んでいる。その姿に、魂の通った相棒の操作によってでしか、超現実のパフォーマンスを発揮しないマシーンが、相棒の帰りを静かに待ち、次の冒険を夢見ている、そんなアニメでオタクな想像をしていた。それほどに屋台の作り込みから、作者の柚木さんの愛情を感じ、付き合いの長さが見て取れる。
今回物々交換の地の6市ごとに屋台の電飾看板のデザインを替えているらしく、電車でいうとヘッドマークに当たるその部分が、演歌的場末感漂い、盲目的でいいなと勝手に思った。
映し出されている物々交換のドキュメンタリー映像は、物と物を繋ぐ中で関わった人々に笑顔をもたらしているところが印象的で、それは誰にも出来ない柚木さんの人柄がもっとも表れていると思った。健康的で明るく、救いがあり、爽やかな風が占めている。しかし逆に言えば、ヘッドマークに感じた演歌的情けなさや、グズグズ感は少ない。どの部分を切り取って表現とするか、それは当然柚木さんの中にしかない。それでも、ヘッドマークや屋台の細部にみる、観る人にとって伝わらない、もっといえばどうでもいい個人の偏執的なこだわりの部分が、まわりまわって誰かの心をもっとも突き動かすんじゃないかと思えてくる。


3階の他の教室には、この廃校になる教室の鎮魂歌と解釈することが出来る作品で、子供達が教室で授業を受けている音声が流れている。インド人の作品で音声もインドの子供の声だ。アートを通して屁理屈のようにそことあそこを結ぶ姿勢に、少し首を傾げてしまう。そこはそこだし、あそこはあそこだ、と思うのだが。
2階の廊下伝いに連なった教室には日本人の作品がある。教室の床に横たわる板ダンボールに、来場者が思い思いの色紙を貼付けて、教室の窓から見える風景を共同制作するという他力本願の作品がある。いつの頃からか、子供に美術というものを教える、伝える時に、他者と美しさを共有するみたいなワークショップというものが生まれたのだろう。○○しよう!○○をつくってみよう!健全な肉体と魂を育てる体育のような美術から、ホンモノの芸術、文化を生むだろうか?
暗幕で閉ざされた体育館の中央には日本人の作品で、空模様が投影された飛行船が一機、浮いていた。


校舎の表に出て校門の側にあるたばこ屋で煙草を吸っていると、地元の子供達が向こうから駆けてきて「こんちわー」と気持ちのいい挨拶を受けた。

積み上げられたブイの山が幾山もある漁港をまわり五浦の灯台へ行く。波際の岩礁のようなところに、東北大震災の時に被害が報道された、六角堂が見える。今はもう立派に再建した姿が、遠く高台からみえる。
次に地元の金物、荒物、日用品、雑貨店をひとまとめにしたような、何でも屋に連れて行ってもらった。ホームセンターという言葉はしっくり来ない印象がある。ここには一点一点のこだわりがあるような気がするのだ。用途は知らないが上棟式で使う鶴の飾りはあまり他所では見掛けない。ここに、ビジネスホテルなんかのルームキーに使う、紫や赤や緑のアクリル棒が売っていると柚木さんに教えてもらい、買いにきた。それを4本買った。ちょうど店内には、「ひるのいこい」のラジオ放送が流れていた。


高萩に戻り国道沿いのドライブインしらかばに立寄る。この乾いたロードサイドのドライブインを、柚木さんは今回の芸術祭滞在制作期間中、何度も通り過ぎ、気になっていたという。俺も一目で惚れた。排ガスと道路の灰色と、太陽光で漂白した白、薄水色の空、その3色の印象。
広い駐車場の隅にある漂白した建物はかつて何を担っていたのか、卵の殻のような存在だけが取り残されている。
しらかばに入り、焼肉定食と半ラーメンを、柚木さんは大盛りラーメンを注文した。注文したものを待つ間、店内を見渡す。大判カレンダーが多数壁に掛かっている。暦の下の広告主に気を遣っている為か20枚以上はありそうだ。レジ横には、ミニチュアの民家が作って置いてあり、内一つの民家の床の間には、滝を上る鯉の写真を貼った掛軸が掛かっている。客席間を仕切る保健室にありそうな布のパーテーションのステンレスフレームに、汚い虎のぬいぐるみが抱きついている。壁際には漫画本が詰まった棚がある。トラックの運転手らしき作業着の男がひとり、またひとり来店し飯を食べて出て行った。いい風景である。
by koyamamasayoshi | 2016-11-10 14:40 | 日記


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