けんぽくロードサイド 2016/11/3-4

10年ぶり位だろうか、取手駅にやって来た。
茨城県県北で開催されている芸術祭を、同芸術祭に参加している芸術家の柚木さんの運転する軽トラで観に向かった。車内で聴くCDを持ってきてと言われていたので、前日寝る前に数枚選んだ。
野坂昭如をかけながら常磐自動車道を北に走る。柚木さんは、あげようと思ってと、猊鼻渓の文字入りしゃもじと乾電池式のカイロをくれた。
今回芸術祭に出している柚木さんの作品は、自作のリアカー屋台小屋を茨城県県北6市を2ヶ月間引きながら、物々交換を通じて地域住民との交流から生まれた物語の一部を展示している。
俺は車内で今回の作品の話を聞いた。その2ヶ月間に、いいことも辛かったこともあったようだったが、結局翌日別れるまで、辛かった話は口にされなかった。その辺りが柚木さんらしい気がする。
那珂で高速を降りて常陸大宮市に入る。建物が低く、空が高く、いかにも国道沿いの乾いた風景だが、この土地に相性がいいのか、好きな風景である。
矢吹丈が力石徹というライバルを失い、傷心、ドサ回りに落ち、巡業先の大洗からドヤ街の子供たちに手紙を出す。子供たちは家出して無賃乗車などを繰り返して大洗に辿り着く…。
俺は「県北」にジョーが中央に返り咲く、折り目の地としての印象が強い。柚木さんにそのことを話すと、大洗は「県北」ではないよと教えられた。
旧ゲームセンターにてドイツ人の作家が大掛かりな作品を展示していた。表から巨大な籠がゆっくり回転しているのがみえる。会場に入るとその籠の中にお宮のような木組みが籠に連動して回転している。それらは中心に設置された円形の水たまりに浮いて回転している。動力は手動で籠を回すことで回転しているようだが、なぜ回っているのか俺には仕組みがよくわからなかった。
すぐ隣の建物で、日本人作家の巨大な絵画作品が木組みに支えられて20°ほどの傾斜で展示していた。
妻が、けんぽく芸術祭の仕事で袋田から少し北の大子町に行っていた時、大子町に入る川沿いに、俺の好きそうな民宿があるよと聞いていた。それを思い出し車窓を注意深く見ていると、派手な色彩の建物が、川に突き出している。たしか「民宿みき」という名だった気がする。ズバリ好きな感じだった。川に突き出しているところが特にいいなあと思う。
さらに北に向けて走り、袋田手前で脇道に入り、水郡線の上小川駅に寄った。駅前の道端の小屋に張り付いた看板では、YAMAHAのYAが褪色し、消失し、MAHAだけを告げている。そういうところ。
駅舎向かいの、雑貨屋をガラス扉越しに店内を見渡すと、何やら醸しているような気がする。閉ざされたガラス扉の張り紙に「御用の方は云々」と電話番号が書いてあるので電話を掛けた。店内は輸入雑貨と生活用品、自家製プリンが売られている。店内のものと、ものに埋もれた中に、好みのものを求めたが見つからなかった。
家主の生活領域というかバックヤード方面に、控えに回され忘れ去られたままのものたちの気配を感じた。それとなく店主に、古い土産物を探していると伝えるが、結局それらを目の当りにすることは叶わなかった。諦めてそこで売られている自家製プリンを柚木さんと店内で食べた。美味かった。
袋田駅に車を走らせると、柚木さんは無人のホームへと歩いて行った。作品でもあるのかなと付いて行くと、見覚えないか?と訊いてきた。柚木さんがそういうということは、男はつらいよのロケ地なのだろうが、直ぐにどの場面か、ピンとこなかった。
ぼくの伯父さんだよと教えられ、ああ、イッセー尾形の爺さんと電車内で喧嘩して降りた駅か!と納得した。
駅の近くの、河鹿園というホテルに渥美清のサインがあるというので見に行ってみた。玄関に入ってすぐのフロント横の壁の真ん中に褐色に灼けたサイン色紙を見つけた。平成4年の日付が入っている。男はつらいよのスチール写真が添えられていたが、何故かマドンナは大原麗子だった。大原麗子のマドンナは牛久だけど、ここからは遠い。両作品とも劇場公開年と色紙の年数がしっくりこない。…でも、まあ、渥美さんはここに泊まったと思うことにした。
袋田の滝に向かうと、祝日の紅葉シーズン手前で、観光客で溢れ返っていた。
柚木さんは物々交換の旅で数ヶ月前に来た時と比べて、あまりにも客足が違うらしく、たまげていた。土産屋が建ち並ぶ一本道の途中に、民具、農具を引っ付けたような、ボッロい家屋に目を奪われる。その建物の手前にごちゃごちゃっとした地蔵堂なのか祠のようなものが、周囲の風景に弾くがごとく、アングラ演劇の色彩を放ちながら存在している。流れる車窓から目で追いながら、耐性のないひ弱な観光客は、火傷するから近づくんでねぇ、と思わず警告したくなる。
駐車場から袋田の滝に向けて歩く車道のどん詰まりに骨董屋がある。軒上に民具やほうろう看板、天狗の面が引っ付いている。来る途中で見た異彩を放つ小屋と同じ持ち主の家だろうとわかる。
柚木さんはこの店のおっちゃんと以前会ってるようで、話しをしている間に、俺は店内に面白いものがないか探した。意外にも、ポンチな物が少なく手が伸びなかった。
10年前だったろうか、妻は学生達を連れてここに観光に来ていて、その時に「袋田滝子」なるマネキン人形が、骨董屋の前にあったと言っていた。俺はその事をずっと忘れずいたので、おっちゃん店主に訊いてみた。骨董屋はここだけだし、そんな馬鹿馬鹿しい名前の、それでいて哀しい運命を背負わされた人形が居るとすればここしか考えられない。
しかしおっちゃんは、知らんなあ~と忘れてしまっている。産みの親が忘れるんか!?と俺は少しショックだった。その上、店の隣で、鮎やこんにゃくを焼いている少し若い店員たちに、袋田滝子って知ってるか?と訊いてる始末。作ったあんたが知らんならもうみんな知らんよ!
俺はその袋田滝子に会える事を密かな楽しみにしていただけに哀しかった。おっちゃんは、あるとすれば、むこうだわ、と途中で見た、埃まみれの別館のどこかにあるんじゃないかと言った。滝子に会えない、俺の悲しい顔に同情して苦し紛れにそんな適当な事を言ったのか、本当にそこにあるのかわからないけど、おっちゃんは探しておくよと言った。
袋田の滝へ向かうトンネルの中に、赤紫色に明滅する蛇のオブジェが天井にのたくっている。韓国人の作品らしい。
トンネルの先に、濃いねずみ色の丸い岩肌を滑り落ちる滝が見え、流水は幾筋も白い線を起こし、まるで素麺のようだった。
観光地の楽しみは土産屋で、しかも30年前~50年前団体旅行で賑わったような観光地の土産屋に興味がある。今回土産屋を隈無く見たが、どうしても欲しいという土産物は見つからなかった。
柚木さんから、この先、大子町の作品を観に行くか、外観が以前から気になっている骨董屋に行くかの選択をせまられた。俺は後者を選んだ。
車内の音楽を八代亜紀に切り替え山道を走り、里山を抜ける。峠の道路端に炭焼き小屋(!!)を発見し、通り過ぎる時に側に立っていた炭焼き職人と目が合った。
里山を走る道沿いに「かかしまつり」の幟がはためいている。その旗がどんどん増えていき、かかしまつりの会場に着いた。藁で作られた大掛かりな案山子が50体くらいあっただろうか。尾長鶏、ドラえもん、トトロ、とにかく明るい安村、などが寒風の空、ゲートボール場みたいな所に、お互い恥ずかしがって寄り添い暖め合うように置かれている。素直に、刈り終えた田んぼに堂々と設置した方が面白いんじゃないかと思える。
その近くに目的の骨董屋というか雑貨屋があり、外見は椰子の木やインディアンの木彫があったりと良さそうな気がしたが、店内にぐっとくるものは見つからなかった。
高萩市に入り、町の向こうに太平洋が光っているのが見える。でかい煙突2本、その奥に骸骨のような大規模な廃墟構造物群がちらりとみえた。これは明日もっと近くで見てみたい。
つまみと缶ビール、丸ストーブの灯油を買って、柚木さん達、芸術祭関係者が利用していた墓場と隣り合わせの宿舎へ向かった。
宿舎で缶ビールを飲みながらくつろいだ後、高萩駅近くの居酒屋にご飯を食べに行った。
2軒目に見当を付けていたスナックの、「ひばり」か「ふらわあてい」で、「ひばり」のドアを選択し開けて呑み直した。
先客で間違いなく常連の女2男1の3人は、歌を歌い続けていた。合間に柚木さんが巧い歌を披露し、点数が出るシステムの高得点を叩き出すと、驚嘆の目と賞賛の拍手を投げかけた。俺は下手な歌を2、3披露した。
「ひばり」を出た先に屋上に繋がる螺旋階段がある。この屋上にも店があったらしいが、今は暗い空と、静かな町を眺めるだけで、なにもない空間だが、いいところだ。
宿舎に帰る深夜の山道を、柚木さんは右左に揺れ揺られながら足を運んでいる。時折その横を、煌々と光を放って車が走っていく。
by koyamamasayoshi
| 2016-11-09 01:47
| 日記
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